私はベトナムにくる前にこのような噂を聞いたことがありました。たしかに,ベトナムはアオザイを着た美しい女性のイメージがあります。ベトナム人男性も,健康的な肌で細マッチョのイメージがあります。2016年のWHO(世界保健機構)による肥満度調査によると,女性の肥満率は2.6%,男性の肥満率は1.6%と両方とも世界で最下位となっています。ベトナム人は本当に痩せている人が多そうですね。
……。
本当でしょうか,と私は感じるのです。実際に,ベトナムでは肥満が社会問題になり始めているといいます。
●ベトナム人成人の4人に1人が過体重か肥満[2015年]
●肥満児童数が急増、ホーチミンの肥満率は世界平均を上回る[2013年]
●ダナン:市街地では児童の肥満率94%の小学校も[2011年]
●ホーチミン:児童の肥満・過体重が急増、小学生の51.8%が肥満傾向[2015年]
最近では,太るのを防ぐために健康食品やジム通いが流行っているほどです。そこで,この記事では「ベトナム人はやせ型だ」というWHOのデータと通説に対して,私が感じる真偽とその理由を分析してみることにします。
ベトナム人の体型について「痩せ型だ」とする通説・WHOのデータに対する考えとその理由を考察していきます。
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ベトナム人の体型
結論から言うと,ベトナム人はやせ型だとは思いません。
という方は,安心してください。現在でもベトナムにはアオザイを着こなすスレンダーな女性はたくさんいらっしゃります。それでは,私がこの結論に至った2つのエピソードを紹介します。
サッカーをする友達のお腹
以前,ベトナム人は「上裸」VS「着衣」でチーム分けをするという話をお伝えしました。
ベトナム人で上裸になるのを恥ずかしがる人なんていませんから,私はほとんど全員の上半身を見ることになります。そこで思ったことなのですが,みんなお腹が出ているんです。
と思ってしまうほど隠れ太っちょが多いんです。これはおそらく,ベトナムでは「大学生」=「富裕層」になっているからかもしれません。それにしても,ベトナム人は細マッチョという私のイメージが崩壊するほどには彼らの体は緩んでいました。
町中ですれ違うベトナム人
私はバイクを持っていなかったので,ほとんどの場合徒歩で町中を移動していました。道路を歩いていると本当にたくさんのバイクに乗ったベトナム人や喫茶店にいるベトナム人とすれ違います。ベトナムの喫茶店はドアがなく,道に対してはみ出す形で店がオープンしています。そこですれ違う方々を見て発見したことなのですが
「若年男性」=「太り気味」
「中年男性」=「やせ気味」
「若年女性」=「やせ気味」
「中年女性」=「太り気味」
こんな関係を発見しました。もちろん例外はあるでしょうが,面白いのは男性の傾向ですね。日本では中年になればなるほどお腹が出てくるイメージがありますが,ベトナムではおじさんの方が痩せているんです。これは,多くの日本人がオフィスワーカーであるのに対し,ベトナム人男性の多くが土木や建築,運送業など肉体労働をされているという理由が考えられます。大学生は働く時間も少なく食べて飲んでいるだけですので太ってしまうのでしょう。
ベトナム人が「脱やせ型」している3つの理由
ここでは,ベトナム人が脱やせ型している原因について探っていきたいと思います。
食生活の変化
経済発展を受けて,ここ数年でベトナムの生活水準は大きく向上しました。それに伴い,ベトナム人の食生活にも変化が起き始めています。ベトナムの料理と言えばフォーやブンチャカーなど野菜をたっぷり使った料理が有名です。ベトナムの料理については以下の記事で詳しく扱っています。
しかし最近では,アメリカや日本から多くのファストフード店が流入しているといいます。私が住んでいた家の周りには,ロッテリアやケンタッキーがありました。他にも,ピザ屋さんなどのファストフード店が大繁盛していました。このように,食生活が先進国化しているのも1つの要因でしょう。
また,ベトナムの飲料には驚くほどの砂糖が入っています。ベトナムコーヒーには大量の練乳を入れますし,フレッシュジュースにも砂糖を入れます。極めつけに,こんなエピソードがあります。私が喫茶店に行った時の話です。私はベトナムで出てくる異常なほどに甘い飲料が苦手で,毎回
と唱えていました。しかし,ある店に入ったときのことです。いつものように
と唱えてピーチティーを頼みました。店員さんも理解してくれたようなので
と安心してドリンクを受け取り席につきます。喉もかわいていたので,頼んでいたピーチティーをゴクッと一気に飲んだところ。
めちゃくちゃ甘いんです。
私は意味が分からなかったので店員さんに聞きに行きました。そのとき,店員さんから衝撃の一言が…。
……。
どうやら,ベトナムのピーチティーはデフォルトで砂糖のほかにピーチを漬けていたシロップを入れるらしいです。そのときの体験は今でも忘れられませんが,同時にベトナム人がいかに甘党かということを思い知らされました…。このような体験からも分かる通り,ベトナム人の砂糖摂取量は異常です。実際,ベトナム人の砂糖消費量は年間30~40%増加しており,清涼飲料水の消費量も2018年には50億Lを越え,ますます多くの人が砂糖を摂取するようになっています。このように,肥満の原因としてはファストフードや砂糖の摂取量などが関係していると思われます。
交通手段が「バイク」
2つ目の理由としては,ベトナム人の交通手段がほとんどがバイクということが挙げられます。日本人でも
という人をよく見かけます。ベトナム人は歩くことや自転車に乗ることが少なく,ほとんどの移動をバイクで済ませてしまうので圧倒的に運動不足です。食生活・運動習慣がおろそかになっている時点で肥満度が増加していくのは当然の結果のように思えます…。
ベトナム人の体型に関する考え方
ベトナムには「Béo thì khoẻ, gầy thì yếu」(太りは健康、痩せは病弱)ということわざがあります。このことわざに代表されるように,ベトナム人は「太っていること」に対してマイナスのイメージがありません。逆に,長期間続いていた戦争によるものなのか,飢餓によるものなのか分かりませんが,痩せていることにマイナスイメージを持っています。
ですから,ベトナム人は太っていたとしても何の恥ずかしげもなく堂々としています。他にも,ベトナム人の中には「我慢」や「自律」が苦手な人がいます。食べたいものを食べる。飲みたいものを飲む。それが仕事中だろうが関係ありません。このような国民性も,ベトナム人の肥満度に大きな影響を与えていると考えられます。
ベトナム人が痩せ型とされる2つの理由
しかし,いまだにベトナム人は痩せていると噂されることは多いです。一体どんな理由からそのような噂がたっているのでしょうか。
ベトナム料理はヘルシー
上でもお伝えしたように,ベトナム料理にはたくさんの野菜がついてきます。ですので,ローカルフードを食べる場合には摂取カロリーが低いのが特徴です。それだけでなく,味付けも薄味のものが多いです。基本的に,卓上の調味料で自分で味付けするのがベトナム流です。また,ベトナム人は食べる量が少ないというのが私の印象です。日本人であれば提供された料理を残すというのは失礼だと教えられているので残さず食べますよね。
ベトナム人は食べきれなかったり口に合わなかったりすると全部残してしまうんです。残すことに罪悪感を感じていないようでした。このような理由から,ベトナム人は痩せ型だとする説もいまだに根強いです。
ベトナム人は運動好き
ベトナム人の朝は早いです。多くのベトナム人は朝6時前後には活動を始めます。そんなに朝早く起きて何をしているのか。もちろん学校や仕事のために早起きしている人は多いでしょう。しかし,それだけではなく朝公園に行って軽い運動をするために早起きしているベトナム人が多いのです。このような健康志向の国民性からベトナム人が痩せ型だとする説もあります。
まとめ
結論は「ベトナム人の肥満度は年々増加している」です。この結論は,データに基づいても正しいものだと言えるでしょう。一方で,ベトナム人が痩せ型とされる説も存在しています。それは数年前のデータに基づくものや「ベトナム料理」=「ヘルシー」というイメージが根強いことが原因だと思われます。
実際に,ベトナム料理はヘルシーなのですが油を使った料理もありますし,一概に「健康的だ」とは言いきれない部分もあります。また,ベトナム人は運動好きだとする説もありますが,私が在住している間には実感することができませんでした。やはり,経済的に豊かになっていくと人間のお腹も豊かになっていくようです。ぜひ皆さんは,ベトナム人女性(男性)がスレンダーだという幻想を抱きすぎないようにしてくださいね。
ベトナム人の肥満率は世界最下位ですよ(2016年のデータです)
http://ncdrisc.org/obesity-prevalence-ranking.html
ああああ 様
ご連絡ありがとうございます。本文中のデータを修正させていただきました。
また,本記事の内容を「データ上は肥満率は低いが,留学を通してそのような印象は受けなかった。その理由を考察してみた。」というものに変更致しました。
ご指摘いただき,非常に助かりました。
ご丁寧なご返信ありがとうございます。
早速ですが、投稿した数日後の5月8日に同機関がnatureで論文を発表しました。
データ上でもzukaさんが言う通りの結果でしたので追記します。
調査結果によるとベトナムに限らずほとんど全ての国々で、人々の肥満度が増大しているとのことです。
都市部のベトナムでは男女ともにBMIの平均値が標準値である22を超えてるので痩せてはいませんし、
都市部の女性に関していえば日本よりもベトナムの方がBMIの平均値が高いです。
ベトナムも日本と同様に肥満が問題化しているとのことです。
しかし驚くべきことは、肥満が問題化している日本やベトナムですら世界的には比較的痩せている方だということです。
如何に世界規模で人々の肥満度が増大しているのかがよく分かります。
特に199ヶ国中165国の都市部で、女性のBMIの平均値が肥満の基準値である25以上となっているという調査結果には驚きが隠せません。
論文
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1171-x
Urban BMI[kg/m^2]
成人女性
197位ベトナム…22.5
199位日本…21.6
成人男性
156位日本…23.6
191位ベトナム…22.4
http://ncdrisc.org/bmi-mean-ranking-urban.html
Rural BMI
成人女性
184位日本…21.9
189位ベトナム…21.4
成人男性
136位日本…23.6
186位ベトナム…22.4
http://ncdrisc.org/bmi-mean-ranking-rural.html
ああああ様
ご丁寧にご教授いただき誠にありがとうございます。
肥満度に関して考え直すきっかけになり,勉強させていただきました。
後ほど,記事に論文の内容を反映させていただきます。
また,情報の出どころを明記するという基本的な部分についても,リライトを含め,再度気を引き締めて参ります。
女子高生の平均体重比較
15歳
日本51.7kg
ベトナム39.66kg
16歳
日本52.7kg
ベトナム41.69kg
17歳
日本53.0kg
ベトナム43.39kg
ソース
ベトナム
https://huemed-univ.edu.vn/chieu-cao-dung,-can-nang-va-chi-so-khoi-co-the-cua-thanh-thieu-nien-15-den-24-tuoi-o-thua-thien-hue-sckhcn-c74
日本
https://www.mext.go.jp/content/20200319-mxt_chousa01-20200319155353_1-3.pdf