本記事は教養記事シリーズその8です。その他の教養記事はコチラの目次をご覧ください。
TOBって?
伊藤忠とデサントの関係は?
今はどういう状況なの?
TOBとは
TOBは「Take Over Bid」の頭文字を取ったもので,株式公開買い付けのことを指します。かみ砕いて言うと,株式を買い取る「価格」「株数」「期間」を前もって指定して市場の外で一度に買い付けることをTOBといいます。
通常の株式であれば利益を目的として証券会社を通した株の取り引きが行われます。しかしTOBの目的は,企業を買収することや子会社にすることです。言い換えるとTOBはM&Aを実現するための1つの手法であります。
TOBの種類
TOBには2種類あります。1つ目は「友好的TOB」と呼ばれ,株式買い取り先の企業から同意を得たうえで行うTOBのことを指します。2つ目は「敵対的TOB」と呼ばれ,友好的TOBとは逆で同意を得ずに行うTOBのことを指します。後者は前者に比べて,強引に相手企業を買収するため株式の価格が高くなることが多いです。
TOBの利点と欠点
それでは,なぜ企業買収のときにTOBが使われるのでしょうか。以下では,TOBのメリットとデメリットを確認していきたいと思います。
メリット
TOBを利用する1番のメリットは,大量の株式を一度に買い占めることができるという点です。通常の取引では株式買い取りの制限がありますから,買い取り先の企業の経営権を取ることが目的である場合はTOBが有効です。
他にも,「価格」「期間」を指定できるために見通しの良い安定した取引を行うことが可能になります。通常の取引であれば株式を買い取ると価格が変動してしまいますが,TOBであればあらかじめ設定された価格で取引を行うことが可能になります。
デメリット
TOBでは通常の取引と比べて割高な株式を買い取ることになります。TOBにより株式を買い取られる側からすれば株式の大部分を占められてしまう危険性があるため,TOBにおける株式の価格設定は市場価格にプレミア価格を上乗せしたものになります。
他にも,TOBで株式を買い取った後に株主が安く新規株を購入できるようにしておく「ポイズンピル」という対策を取られる可能性もあります。
伊藤忠とデサントの関係
伊藤忠商事によるデサントへのTOB(株式公開買い付け)が14日、期限を迎えます。デサント株の筆頭株主の伊藤忠は出資比率を最大4割に引き上げると発表すると、デサントは反対。日本では異例の大企業同士の敵対的TOBに発展しました。
出典:日本経済新聞
こちらの記事を見ても分かる通り,伊藤忠がデサントに対して敵対的TOBを行いました。両社の関係の歴史は古く,初めて手を組んだのは1964年のことです。その後デサントは2度の経営危機に直面しましたが,両方とも伊藤忠が再建の手助けをしています。
しかし,2011年頃から両社の関係は悪化していきます。2013年にデサントが伊藤忠出身の社長を解任したことや,売上高の約5割を韓国における事業が占めている現状などにより両社の経営方針の溝は深まるばかりでした。
2018年6月に両社のトップによる会談が行われたことと,デサントが同意を得ずにワコールホールディングスと提携を結んだことをきっかけにして,伊藤忠はTOBに踏み切ります。プレミア価格は市場価格の5割で,出資比率は4割を占めました。
現在の状況
伊藤忠とデサントの間のTOBの期限が3月14日になっています。プレミア価格を市場価格の5割として設定するほどの相手を他に見つけることは難しく,デサントは「対抗策は協議していない」としています。(出典:Business journal)
伊藤忠はデサントの韓国偏重を批判していますが,実際にデサントは韓国で良い業績をあげています。伊藤忠の主張は中国を見据えた市場展開をするべきだというものですが,果たして的を得た忠告なのでしょうか。今回のTOBにより伊藤忠のイメージダウンも懸念されます。経済的に大きな影響力をもつ両社の関係に注目が集まります。