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【初学者向け】マルチメディア通信<著作権法編>

この記事では,マルチメディア通信に関わる知識を簡単にまとめていきたいと思います。ただし,全ての知識が詳しく網羅されている訳ではありません。また,分かりやすいように多少意訳した部分もあります。ですので,参考程度におさめていただければ幸いです。

間違えている箇所がございましたらご指摘ください。随時更新予定です。他のサーベイまとめ記事はコチラのページをご覧ください。

著作権法

著作権法に関する最近の改正は以下のようにまとめられます。

●平成18年 臨時国会著作権法改正
●平成21年 通常国会著作権法改正
●平成24年 通常国会著作権法改正
●平成26年 通常国会著作権法改正
●平成30年 通常国会著作権法改正

平成18年 臨時国会著作権法改正

主な注目ポイントは

  1. 同時再送信の円滑化
  2. 時代の変化に対応した権利の見直し
  3. 著作権保護の実効性の確保

です。同時再送信とは,例えばテレビの放送をリアルタイムでネットを通じてモバイル端末などで放送することです。IPマルチキャスト送信は「自動公衆送信」に該当し,平成23年の地上アナログ放送から地上デジタル放送への完全切り替えに向けて,IPマルチキャスト送信にも著作権上で有線放送と同様の扱いをするための改正です。(主に実演・レコードに対する処置)

時代の変化に対応した権利とは,公衆送信の定義の見直しや視覚障害者に対する録音図書の自動公衆送信に係る権利制限,特許審査手続等及び薬事行政手続における複製権の制限,機器の保守・修理等における一時的複製に係る権利制限などがあります。著作権の実効性に関しては,輸出行為等の取り締まりや著作権侵害等の罰則の強化があります。

詳しくは文化庁のHPをご覧ください。

著作権法と公衆送信については,少し説明が必要です。まず,公衆によって直接受信されることを目的として行う送信を「公衆送信」と呼びます。著作権の公衆送信については,以下の図のように平成9年に整理されています。(参考:IPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱い等について[文部科学省]

つまり,公衆送信には「放送」「有線放送」「自動公衆送信」とがあるとされました。しかし,著作権が認められる範囲が「放送」「有線放送」と「自動公衆送信」では異なり,後者の方が著作物の権利者の権利が広く認められていました。そのため,自動公衆送信では権利者の承諾を得る必要があったというのが現状でした。

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/digitalcontent/pdf/070123_1_s1.pdfより抜粋

文部科学省の資料[参考:IPマルチキャスト放送の著作権法上の取扱い等について]を参考にして,なぜ「IPマルチキャスト通信」が「有線放送」と解釈されるのかの根拠についても見ていきます。以下引用です。

有線電気通信設備を用いた送信が著作権法上の有線放送と解されるには

  1. 有線電気通信設備により受信者に対し一斉に送信が行われること
  2. 送信された番組を受信者が実際に視聴しているかどうかにかかわらず、受信者の受信装置まで常時当該番組が届いていること

が必要であると考えられる。この点,IPマルチキャスト放送は,IP局内装置までは「同一内容の送信」が行われているが,局内装置から各家庭までの送信は,各家庭からの「求めに応じ自動的に行う」ものであることから,「自動公衆送信」であると考えられる(情報を入力し続けることによる送信形態であることから,入力型の自動公衆送信である。)

この通り,IPマルチキャスト放送は,著作権法上「有線放送」ではなく,「自動公衆送信」と扱われるため,放送番組の送信に当たっては,CATV等の「有線放送」とは,関係する権利の働き方が異なる場合がある。

自動公衆送信には「入力型(ストリーミングインターネット配信等)」と「蓄積型(ビデオ・オン・デマンド)」があります。

平成21年 通常国会著作権法改正

注目するべきポイントは

  1. インターネット等を活用した著作物利用の円滑化を図るための措置
  2. 違法な著作物の流通抑止
  3. 障害者の情報利用の機会の確保

です。まずは,検索エンジンなどの発展によって,ネット上の情報の収集や解析に関して著作権者の快諾を得なくても可能とするような改正がなされました。

他にも,オンデマンドサービスによる映画・ドラマなどの再放送に関して利用を加速させるような改正や,国立国会図書館の所蔵資料を電子化して文化的遺産として保存することを可能にするような改正,情報解析やキャッシュサーバーの制限を取り除くような改正がなされました。

違法な著作物としては,海賊版知りながら販売を行なった者や違法なインターネット配信による複製なども権利侵害とする改正がなされました。また,障害者の情報利用の機械の確保としては,権利主体の拡大(点字図書館→公共図書館)や対象者の拡大(視聴覚障害者→発達障害者も対象に)などがあります。

平成21年の著作権法改正に関しては文化庁のHPをご覧ください。

平成24年 通常国会著作権法改正

注目するべきポイントは「技術的保護手段」に暗号方式が加わった点です。例えば,DVDのディジタル著作権を保護するための「SCC(Content Scramble System)」や,ブルーレイディスクの保護で用いられる「AACS (Advanced Access Content System)」,ディジタルテレビ放送の保護のための「ダビング10」などがあります。

これらの保護技術を回避して複製などを行う行為を罰するために,技術的保護手段に暗号方式が加えられました。従来は「信号を付加して複製等から保護する」技術のみを想定していたため,暗号方式は技術的保護手段に含まれていませんでした。

2014年以降はアナログ出力できる機器の製造・販売が禁止されました。アナログ出力とは,RCA端子(赤・白・黄の三本のアレ)で出力される映像のことです。昔のブラウン管テレビなどはビデオと再生機器をRCA端子で繋いでいました。方式としては,映像を構成する情報が重畳された信号を振幅変調するというものです。しかし,一旦重畳してしまうとMPEGなどの圧縮技術で用いられるような「輝度+色差」というコンポーネント信号(ディジタル出力)への変換が難しいため,アナログ出力は廃止されました。アナログ信号では,重畳の際の残留成分や装置間での相互変換によって画質が低下してしまうという問題もありました。

平成26年 通常国会著作権法改正

注目するべきポイントは

  1. 電子書籍に対応した出版権の整備
  2. 視聴覚的実演に関する北京条約の実施

です。今までは出版の対象となるものが紙媒体に限られていたため,CD-ROMによる出版や公衆送信による電子出版も含まれるように改正されました。要するに,出版権を持つことができる対象が広がったということです。

また,世界知的所有権機関(WIPO)を締結するために日本の法も微調整したというのが「視聴覚的実演に関する北京条約の実施」です。著作権法による保護を受ける実演に,視聴覚的実演条約の締約国の国民と,当該締約国に常居所を有する者である実演家に係る実演を加えました。

平成30年 通常国会著作権法改正

主なポイントは以下の通りです。

  1. デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規の整備
  2. 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備
  3. 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備
  4. アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等

それぞれ見ていきます。まず,①はAIやビックデータの扱いに関する話題です。学習データとして著作物を利用する際の制限を緩くしようという趣旨のものです。具体的には,「著作物の非享受利用」「著作物の軽微利用」の場合著作者の同意がなくても利用が認められるようになりました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/contents/dai4/siryou6.pdfより引用

上図でいうと,[第一層]が「著作物の非享受利用」に相当し,[第二層]が「著作物の軽微利用」に相当します。[第三層]に関しては制度の検討が必要とされています。各層では,以下のような規定が整備されました。

[第一層]
●新30条の4
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用
●新47条の4
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等

[第二層]
●新47条の5
新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等

教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備とは,簡単に言えば「ICTを活用した教育の推進のために制限を緩くしましょう」というものです。障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備はマラケシュ条約締結のために行われた改正で,簡単に言えば「障害と適用される範囲をもっと広くしましょう」というものです。アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等とは,簡単に言えば「タブレット端末の利用を促進したり保証金等の手続きを簡略化したりしようぜ」という改正です。

2018年12月の中間まとめでは,リーチサイト(複数の著作物へのリンクが貼られるサイト)にリンクを貼る行為が違法になるという方針を固めています。他にも,ダウンロード違法化を使用目的でも適用されるようにすることや,最新の技術動向を踏まえたアクセスコントロールの保護対象の見直しなどが挙げられていました。

詳しくは文化庁のHPをご覧ください。

参考文献

[1] STORIA法律事務所

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zuka
京都大学で機械学習を学んでいます。

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