グローバル化が進み,いまや文化の多様性や影響を考えることは必須になっています.特にビジネス面では,国際協力をする上で文化理解が前提になります.
そこで,この記事では世界的に有名な国際経営論・文化人類学者のホフステード教授(Prof.Hofstede)による「文化比較の6次元モデル」を紹介します.具体例として,日本・ベトナム・アメリカ・オーストラリア・韓国・タイの6か国を比較していきたいと思います.
ホフステードの文化比較モデルに従って,6か国を定量的に比較していきます.
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ホフステードって誰…?
ホフステード教授は1928年生まれのオランダ人学者です.彼は組織人類学と国際経営論の名誉教授であると同時に,多国籍企業の経営者でもあります.実体がなく捉えにくい「文化」という概念を,相対的なスコアによって定量的に評価した文化人類学者の第一人者です.2008年には,ウォールストリートジャーナルによって「世界で最も影響力のある経営者」の1人に選ばれています.
特に,ホフステードによる「6次元モデル」は有名で,世界で初めて文化を国別に数値化することで異文化理解に対するパラダイムシフトを起こしたといえます.
ホフステードの6次元モデル
Individualism/Collectivism
個人がどれだけ集団に帰属するかの指標です.私たちは,生きていく上では必ず何らかの集団に属しながら生活しています.例えば,一番身近な例は家族です.他にも,学校や会社などあらゆる面で「個人」と「集団」を融合させています.
Individualismの文化においては,個人同士のつながりは薄く,意見の対立も個人の尊重のためには必要だとされます.逆に,Collectivismの文化においては,集団の中で社会的調和を保つことが第一だとされます.
【Individualism】
●ヨーロッパ
●南アフリカ
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
【Collectivism】
●中国
●東南アジア
●中東
●アフリカ
Power Distance
権力格差の指標です.どの社会にも不平等は存在しますが,その不平等に対して「何を考え」「どう行動するか」をスコア化した評価基準です.具体的には,権力が弱いメンバーが不平等を受け入れる程度を数値化しました.一般に,先進国であればあるほど権力格差のスコアは低くなります.
【高い国】
●中東
●東南アジア+ロシア
●アフリカ+ラテンアメリカ
●インド
●フランス
【低い国】
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
●北欧
Long-termism/Short-termism
どれだけ過去とのつながりを意識するかの指標になっています.Long-termism側の国家はたくさんの投資が可能で,市場シェアを狙い,長期的利益を追求して家族をターゲットにします。一方,Short-termismの国家は投資をあまりせずに,四半期ごとの成果を基準にして投資信託を好みます。
イメージとしては,Long-termismの文化は東アジア・インド・ブラジル等の多神教諸国です.対して,Short-termismの文化は西洋諸国の一神教諸国です.前者は「忍耐」が美徳だとされるのに対し,後者は規範に従うことが絶対だとされます.日本語では前者を実用的,後者を規範的と訳出します.
【Long-termism】
●東南アジア
【Short-termism】
●北アフリカ
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
Masculinity/Femininity
人生において重要だとする考えの指標です.ホフステードは,業績や成功をモチベーションにする考えを「Masculinity」,ライフワークバランスや人間関係をモチベーションにする考えを「Femininity」と名付けました.決して,いわゆる「男性らしさ」「女性らしさ」ではないことに注意が必要です.
【Masculinity】
●東アジア
●中欧
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
【Femininity】
●北欧
●ラテンヨーロッパ
●アフリカの一部
Uncertainty avoidance
未来に起こる不測の出来事に対し,どれだけ不安を感じるかの指標になっています。この指標が高い国では,たくさんの規則やルールが作られます.国の仕組みに従うことで,不確実性を回避しようと考えます.逆に,この指標が低い国では必要最低限の仕組みしか整えられません.規則やルール(プロセス)にとらわれず,結果さえ出せればよいのです.
Long-termismであるのにUncertainty avoidanceが低い国には,完全子会社として(Wholly Owned Subsidiary)外国企業が参入します.逆に,Long-termismであってUncertainty avoidanceが高い国には,合弁会社として(Joint Venture)外国企業が参入します.
【高い】
●フランス
●スペイン
●東ヨーロッパ
●中東
●ラテンアメリカ
【低い】
●南アジア
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
Indulge/Restraint
生活を楽しんだり,喜びを追求することへの許容度の指標を指します。この指標が高いほど,欲求を満たすことが社会的に許されているということを示します.国民の幸福感と相関があることが示唆されています.
【Indulge】
●ラテンアメリカ
●北欧
●アングロサクソン国家
(加・米・豪)
【Restraint】
●東アジア
●フランス
●ドイツ
●イタリア
6か国の比較
ホフステードモデルのデータベースからデータをお借りしました.以下に,6か国の比較画像を示します.
考察
日本
まずは,日本についてです.日本は平均より少しPower distanceがあり,平均より少しcollectivismの傾向があります.特筆すべきは,Masculinityの指標で,日本は世界で最もMasculinityの傾向が高い国の1つです.「武士道」「オタク」に代表されるような,1つのことを極める精神こそが日本特有のものだといえます.
同じく,Uncertainty avoidanceの指標も非常に高いです.このことは,Made in Japanの品質の高さや信頼の厚さにつながっていますが,変化の激しいグローバル社会には適応しにくいという面があります.
グラフからも読み取れるように,日本は世界有数のLong-termism文化です.日本の企業は,短期的利益よりも研究開発への投資や自然災害への対応を重視します.最後の指標である欲求の社会的許容度は,比較的低いといえます.安全・安心が保証された国であるのにもかかわらず,幸福度が高くないことがこのことを裏付けています.
ベトナム
他の国で特別に取り上げるべき指標をいくつか挙げます.まず,ベトナムについては,権力格差が比較的大きく,集団主義的な国だといえます.これらは,社会主義国家の影響だと考えられます.また,ベトナムはFemininity文化であるといえます.ベトナムでは,家族が第一優先されることがワークライフバランスの考えにつながります.同じく,Indulgeな国だとも言えます.現在は,経済発展に伴って国民の幸福度は低下してきているといわれていますが,国民の幸福度も比較的高い国だといえます.
アメリカ
日本との比較という観点でみていきます.日本が比較的集団主義的傾向であるのに対し,アメリカは世界有数の個人主義国家です.一方で,アメリカは日本よりもMasculinityの指標が低く,ある程度の柔軟性や協調性があります.特に,Uncertainty avoidanceとLong-termismでは両者の差は大きく,アメリカは日本に比べて最低限の規則やルールにのみ従い,短期的な利益を志向する傾向にあります.欲求の社会的許容度も,比較的高いスコアを獲得しています.
オーストラリア
こちらも,日本との比較という観点でいていきます.オーストラリアはほとんどの指標において,日本と対極にある国だということが見て取れます.不平等を許容する程度が低く,個人主義的傾向があります.多様性の国として知られているオーストラリアでは,個人個人が尊重されるということです.MasculinityとUncertainty avoidanceについては平均的なスコアで,これらの指標のみ日本と同じような傾向がみられます.特に,オーストラリアはShort-termism文化だといえます.ライフワークバランスを重要視するオーストラリアでは,Indulgeの指標が高いです.
タイ
タイについて特筆すべきなのは,個人主義の指標とFemininityの指標の高さです.タイには比較的敬虔な仏教徒が多いことが関係していると思われます.さらに,タイは短期的利益を追求して,規範的であるという西洋的な考えに寄っています.
韓国
韓国で注目すべきは,世界で一番高いLong-termismの指標です.圧倒的に,実用主義であるということです.日本と比べて,同じような傾向が得られると予想できるのですが,Masculinityの指標は対極的です.成果・成功を重んじるというよりは人間関係やライフワークバランスを重んじます.また,集団主義の指標が非常に高いです.
まとめ
個人的にサーベイ不足で,指標のスコアが文化的にどのように表れているのかを知ることができませんでした.人文系の上手いサーベイ方法が分かっておらず,まだまだ精進しなくてはいけないと痛感しました.