この記事はレビュー記事シリーズの映画「怒り」編です。キャストや使用楽曲,あらすじ等をザっと振り返った後に,全体を通して考察を加えていきます。レビュー記事の目次はレビュー記事のまとめページをご覧ください。
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評価
管理人のレビュー:
心構えが必要な作品です。キャストの豪華さだけが注目されがちな作品ですが,そのメッセージの深いこと。
主なキャスト
<沖縄編>
●森山未來(田中)
●広瀬すず(泉)
●佐久本宝(辰哉)
<東京編>
●妻夫木聡(優馬)
●綾野剛(直人)
●高畑充希(薫)
<千葉編>
●渡辺謙(父ちゃん)
●宮崎あおい(愛子)
●松山ケンイチ(田代)
●池脇千鶴(明日香)
<その他>
●ピエール瀧(警察)
●三浦貴大(警察)
使用楽曲
●M21-許し forgiveness(坂本龍一)
など
受賞
●第40回山路ふみ子映画賞
●日本映画ベスト・テン 第10位
など
あらすじ
物語は八王子で起きた夫婦殺人事件の現場検証のシーンから始まります。暑い夏の蒸し風呂状態の中で刑事(ピエール瀧・三浦貴大)が発見したのは,血とナイフで壁に刻まれた「怒」という文字。
それから一年後,東京・沖縄・千葉で怪しい男が出没します。それぞれの場所でストーリーが独立に進んでいきますが,ニュースで犯人とされる「山神一也」が整形をして逃亡しているという情報が流れたことをきっかけに,人間関係に歪みが生じ始めます。犯人は誰なのか,という定番のテーマを越えて私たちに「怒りとは何か」を訴えかける超大作です。
解説・考察
以下,ネタバレを含みます。最初に「犯人の意図」に関する2つの観点を解説したあとに,本作品の主題に関して考察を加えていきたいと思います。
田中はプライドの塊
本作品を純粋に捉えるとすれば,犯人は狂人じみた行為を貫き通していました。それらの行動というのは,一貫して「自分を保つために人を見下すこと」に基づいていたのです。
映画の中で,このようなシーンがありました。家宅捜索の途中で,刑事は壁一面にチラシが貼られていて,その上に「電車遅延で駅員をドーカツ 顔真っ赤 ウケる 人身事故なんだから仕方ねーだろ おっさん」や「ファミレスで店員に苦情 かっこ悪 馬鹿夫婦 家で食え家で」などと言った人を見下すような言葉が書かれていました。
この場面に象徴されるように,山神は他人より自分は優れていると信じることによって自分自身を保っていたことが読み取れます。実際に,山神と派遣現場で仕事を一緒にしたとされる男が逮捕されて証言を残すシーンからは,現場に間違えて向かってしまった山神にお茶を差し出す女性に対してプライドが許せなかったから殺害したというような推測ができます。信じてやまなかった「誰よりも強い自分」が,いま目の前の女性に助けてもらっている。その紛れもない事実は,山神に強い衝撃を与えたのだと思います。
しかし,この考え方には少し疑問点があります。本作品のクライマックスで,沖縄の別島にある住み家で田中が辰哉を裏切る場面があります。「泉がレイプされていたときに助けてやれなかった,必死で「ポリス!」と叫んだ,タクシーで犯人を追いかけた,戻ったらお前がいた。」辰哉が聞いたのはこのような内容でした。「いつでもお前の味方になる」という約束までしていました。
しかし,田中が最後に言い放ったのは「泉がレイプされるのを待っていた。でも米兵は最後までやらなかった。根性なし。」というような内容でした。田中は,なぜ「お前の味方になる」などという言葉を辰哉にかけたのでしょうか。そして,泉を助けてやれなかったという田中の目には涙が流れていました。この涙はどのような意味を持つのでしょうか。
田中がサイコパス,というような解釈をすればそれまでですが,田中が自尊心の塊だとするならば,なぜ辰哉を救うような言葉をかける必要があり,涙を流すことができたのでしょうか。そこで,以下のような考え方が出てきます。
田中は衝動的ではあるが責任感の強い人間
派遣現場を共にした男の供述に,「(被害者を)生き返らせようとしたんだよ」という部分があります。衝動的に殺害をしてしまったが,殺した後に我に返った田中は被害者を生き返らせようとしたというのです。ここから,田中は「衝動的に行動を起こしてしまう人間」でありながらも,芯の部分は理性を保っていることが読み取れます。
泉のレイプ事件について辰哉と涙を流す場面でも,「二人で泉ちゃんのために何が出来るか考えよう」という言葉をかけています。涙まで流しているのですから,本心で言っているのだと思います。
最後に辰哉を裏切る場面では,辰哉を抱きしめるシーンがあります。これは「首を絞めている」と捉えることもできますが,田中が辰哉のために自分を捧げたことの印なのではないでしょうか。つまり,田中は「辰哉と泉のために狂人を演じることで二人の関係を再構築させる」ことを選んだのだと思います。
「怒り」という主題
本作品のテーマである「怒り」ですが,各登場人物にとってはどのような「怒り」があったのでしょうか。
まずは,田中からです。田中は,プライドだけで自分を保ってきた人間でした。しかし,派遣の仕事もままならずに生きることだけで必死の自分に,怒っていたのだと思います。田中は映画テーマの象徴として描かれていて,怒りの矛先を衝動的に「殺人」や「旅館での暴動」という行動に向けてしまいました。一方,泉のレイプを助けてやれなかった怒りは自分に向かうことになります。辰哉に嘘の発言をして自分を殺させるように仕向けることで,怒りをおさめることを選んだのだと思います。
泉の怒りは,最後のシーンに凝縮されています。田中が完全に悪者だと信じている泉は,田中に対して裏切られたという怒り,レイプ中はどうすることもできなかったという怒り,辰哉が助けてくれなかったという怒りを感じていたように思います。そして,最後の海に向かって叫ぶシーンは,過去との決別を意味していたように思えます。それは,諦めでもあり,世の中の不条理に対する怒りでもあるのです。
辰哉の怒りは,自分の弱さに対する感情でしょう。本作品では「レイプ」「同性愛の性交渉」「知的障碍者の風俗堕ち」など,性に関するセンシティブな描写が多いです。性に関して言えば,男性は女性よりも優位です。それでいて,自分は何もできなかったこと,これから何もすることができないことに対して怒りを感じていたのです。
直人の怒りは,持病を持ちながらも犯人と疑われなくてはならない理不尽さに対する静かな感情です。田中とは対照的に,直人によって内に秘めた怒りが描写されています。決して衝動的な行動を起こすことだけが「怒り」なのではなく,怒りを秘めた結果表出するのが「無口」であるのです。
優馬の怒りは,直人を信じられなかった後悔に尽きると思います。カフェで薫と一緒に楽しそうにおしゃべりをしているところを見てしまった優馬は,直人をバイではないかと「疑い」ます。犯人の右頬には3つのホクロが並んでいることを知った優馬は,直人を犯人だと「疑い」家から逃げ出そうとします。人間を信じることの難しさ,信じることを辞めた瞬間に現れる深い溝というのが巧みに描かれています。
田代の怒りは,自分のものでない借金から逃げていることと,犯人の疑いが重なっている理不尽さに向けられたものだと思います。加えて,疑いが原因で愛子の父親から認めてもらえず,うまく愛子と交際を続けられないモヤモヤに対して向けられたものでもあります。同時に,事件の犯人が捕まった後でも自分は逃げ回らなくてはいけないという事実に対する怒りでもあります。
愛子の怒りは,田代を信じられなかったことに向かうと思います。同時に,最愛の人と一緒に過ごすことができない不条理さ,さらに根本的な「なぜこの人を好きになってしまったのだろう」という怒りもあったのではないかと思います。愛子の怒りは,田代の指紋検証の結果が白であったことを聞かされた後の号泣に最もよく表れています。愛子が知的に軽度な障害を持っているとすると,愛子は社会的に弱者という立場にあり,その弱者が号泣という形でしか怒りを表せないということを描写しています。
ひとこと
他にも,娘と田代を信じることができなかった父ちゃんの怒り,米軍基地を無理やり建設される沖縄県民の怒りなども描かれています。怒りというのは感情の1つの種類にすぎませんが,「どのような人」が「どのような状況下」で「何に対して」怒りを感じているかによって,表出する行動は異なるのだと思います。ただ単純に「社会に対して起こったから殺人した」にとどまらないメッセージを含むこの作品は非常に価値のあるものだと思います。
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